日記

女子大生が暇つぶしにはじめるブログ

初めて酒を飲んだ日

私が初めてお酒をちゃんと飲んだのはある8月の暑い夜の事だった。

 

 

夜から大学で知り合った男と会う約束していて、それを果たすべく私は待ち合わせの改札に向かった。会う目的という立派なものはなく、ただただお互いに暇であり他に遊ぶ相手がいなかったからである。

 

遊ぶといっても、私たちはお互いのことをまだほとんど知らずに名字にさんをつけた呼び方で呼び合うという、なんなら友達ですらない関係なのだ。別にポーカーをやるとか、鬼ごっこをやるとか大学生の飲みの場のようなことをする訳では無い。

 

改札に着くと、彼は先にその場にいて人がスマホを見る時特有のあの無表情で地図を眺めていた。それを見て初めて、そういえば私はこの辺のことを知らなかったし調べても来なかったなと気づき、申し訳なくなった。

 

日時と集合場所以外は何も決めずにただ落ち合った私たちにはやることがなかった。何しようかと言葉を掛けると、彼は夜景が見たいと言った。夜景なんて恋人達の聖地ではないか、出会って1ヶ月も経たない友達未満知り合い以上の我らにはまだ早いのではないかという懸念もあったが、友達未満の男に口答えできるような度胸もない私は笑って頷いた。

 

結論から言うと夜景は素晴らしかった。そこそこ高さのあるビルは、人も車も建物も全てを小さく見せた。無数に広がる小さな光の動く様は心を掻き立て、永遠に見ていたいとまで思ってしまう。この光の粒の一つ一つに人の物語が存在していて、その物語を想像してみることが楽しかった。

ここまで完璧なシチュエーション、隣にいるのが彼氏であればなお良きかな、ちょっと待って私彼氏いないどころか出来たこともなかったわとノリツッコミを1人で心の中で呟いたり、今日を一緒に過ごすこの人の今までの人生を想像してみたりした。相変わらず男は隣にいて、嬉しいのか悲しいのかよく分からない顔をして夜景を撮っている。スマホを横に構えてパシャパシャと規則的にシャッターを鳴らす。

 

小一時間はたった頃、夜景にも飽きてそろそろ下りようかという話になった。

 

急速に下降するエレベーターから窓の外の夜景を眺めていると窓ガラスに反射した彼が見えて、この人は何故私を夜景に誘ったりなどしたのだろうかとふと思った。そう考えている間にもエレベーターはどんどん地面に近づいていきそのうち停止した。

 

この後どうする?と男が聞く。わたしは本当にどうでもよくやりたいこともなかったから、なんでもいいよあなたがやりたいことを私もするよと投げやりに答えた。だから酒を飲んだ。

 

 

 

それだけだった。