ある朝
赤く色付いた葉が、風に揺られながら地面に落ちる。アスファルトと紅葉の対比を見ながら、慣れないヒールに苦戦しながら歩いた。横のあなたはそんな私を薄く笑いながら見ている。目を細めて、とてつもなく優しい顔をしたあなたを見た。わたしもつられて、ふふふと笑ってしまう。
朝1番にすることは、LINEを確認することだ。半年前には毎日のように見ていたあの黄色のアニメキャラが笑っているアイコンを無意識に探している。もうメッセージが来るなんて有り得ないのにね、なんて思いながらLINEを開いていつも通りの通知の海をスクロールしていく。いないいないどうせいないから。目に飛び込んできたのは、あの、いつもの。心臓が跳ねる。鼓動が早くなった。え、なんで。なんで今更話しかけて来るのよ。元気だった?笑じゃないよ。と怒りながらも嬉しい気持ちは抑えきれない。一瞬で頭が冴えて、何て返そうかと考え始める。元気だったよ、それじゃあ愛想が無さすぎるかな。笑とか入れた方がいいかな。彼からLINEが来るだけで、こんなに嬉しいなんて。
彼を見上げた。彼の部屋は散らかっていて、床のあちこちに紙が広がっている。珈琲を入れる横顔を座って眺めた。日が落ちかけて、夕日が射し込んで部屋が黄金色に染まった。そんな夕方。視線を感じたのか私の方を向いた彼は、眩しそうにこっちを見て笑う。ねえと呼びかけて、止めた。目を合わせる。ただその瞬間を切り取って、永遠に、一生私だけのものにしたかった。
耳の奥で微かに不快な音が鳴っている。脳みそを掻き回すような。
何だろうこの音は、と思っているとどんどん大きくなって、段々と意識が覚醒していく。霧が晴れていくような感覚。
ねえ、まさか。
耳元で、目覚まし時計がけたたましく鳴っていた。
その事実に気付いた瞬間、とてつもなく悲しくなって涙が零れた。
また、夢だ。
分かっていたのに。
彼が隣を歩くことも、LINEが来ることも、同じ部屋で過ごすことも、もう無いこと。
なのにまた、飽きもせず同じ夢ばかり見ている。
微かに開いたカーテンから差し込む朝日が眩しい。
また、あさが来た。